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~小さなヒーロー、大きな興奮~「アントマン」ネタバレレビュー

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作品概要

娘のために社会復帰しようと頑張るがなかなかうまくいかない元泥棒のスコット・ラングが、ハンク・ピム博士から体のサイズを自由自在に変えることのできるアントマン・スーツを託され、彼の技術を悪用する科学者との戦いに挑むマーベル・シネマティック・ユニバース第12作目。出演はポール・ラッドマイケル・ダグラスエヴァンジェン・リリー、コリー・ストール、マイケル・ペーニャ、ボビー・カナヴェイル、ジュディ・グリアなど。監督は「イエスマン "YES"は人生のパスワード」のペイトン・リード。

 

 

点数:4.5点(5.0点満点、0.5刻み)

※ネタバレを含みますので読まれる方はご注意ください。

 

 

サイズのギャップの大きさを利用したアクションや、人間味溢れるキャラクター達が織りなす普遍的なストーリーなどかつてのユーモアを忘れずに新たなヒーローの誕生を描く映画がまた戻ってきた。

 

フェーズ2に突入したマーベル・シネマティック・ユニバースはそれぞれ新たな魅力を見せつけながら我々を楽しませてくれるが、はるか遠くの宇宙が舞台である「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を除き、どんどんシリアスな要素が加わり、フェーズ1のような明るさは少し薄れてきたように思える。そんなフェーズ2を締めくくる今作はフェーズ1の頃の明るさや興奮が復活し、それでいてフェーズ3への橋渡しも華麗にこなしてしまう。

 

例えばアントマンになるための訓練をテンポよく見せる場面は「アイアンマン」におけるスーツ製作に試行錯誤する場面のような驚きや興奮がある。様々なアリの種類の特性を理解して手なずける場面はアイディアたっぷりだし、鍵穴をうまく通れるかによってスーツを使いこなせるようになる様子を端的に見せ、ホープとの格闘術訓練ではスコットのヘタレぶりが微笑ましい。ちなみにこの訓練場面はケイパーもののお決まりであるプロが作戦の準備を着々と進めていく快感が味わえる場面でもある。

 

またアクションには様々なアイディアやギミックがこれでもかと繰り出され見る者を楽しませる。サイズが小さくなることで風呂場の水が大洪水のようになる、「きかんしゃトーマス」のおもちゃが大きな列車になるなど、なにげない身の回りの物や出来事が大きな脅威になる場面は、人間サイズの尺度と蟻サイズの尺度のギャップによるある種の滑稽さがある。他にも落下しているために携帯電話や書類がぐちゃぐちゃになっているアタッシュケースの中やきらめくライトや信号が美しいサーバールーム、などが通常あり得ないような場所で戦いが展開されることで大きなスぺクタルを生む。またサイズの大きさのギャップが大きくなるほど見たことがないアクションが連続する。例えば様々なアリを使いこなし敵企業に潜入する場面や羽アリの相棒アントニーとのフライトなどがいい例だろう。

 

そしてアクションや演出にも必ずユーモアな描写があってすごく楽しい。スコットのへタレぶりやだらしなさをテンポよく見せる手際や相棒のルイスが事の経緯を話すときのまどろっこしいカットバックは最初に監督していたエドガー・ライトらしさがある(ちなみこの描写を入れたのはエドガー・ライトではなくペイトン・リードというのが驚きである)。またサイズのギャップによる爆笑ポイントが連続する。ピム博士が開発した縮小爆弾と拡大爆弾によってアリや機関車トーマスが巨大化してしまい、人々を驚かせたり、家を壊してしまうなどいい意味でバカバカしくて笑ってしまう。

 

ストーリーもアメコミ映画でありながら普遍的でとても地に足がついた物語だと感じた。元泥棒のスコット・ラングはやっと釈放され、離婚した妻との間に生まれた娘のために社会復帰しようと頑張るのだが、犯罪歴のせいでなかなか定職に就けずにいた。彼は根っからの悪人ではなく正義感も人一番強いのだが、結局いつものメンバーで泥棒稼業に戻ってしまうような情けなさが残る男だ。社長や雷様、スーパーソルジャーなどどこか人間離れしているヒーローばかりの中、「情けないアウトローだけど娘のために父親になりたいと願う一人の男」の等身大さはとても親近感が湧く。アベンジャーズの中で唯一人間であり家族もいるホークアイと気が合いそうだ。そんな彼がアントマン・スーツを身にまといヒーローになっていくうちに、本当の父親となっていく。

 

一方、ピム博士はスコットの泥棒スキルに目をつけ、敵企業に潜り込みスパイを行う娘のホープの反対を押しのけて自分の研究技術の悪用を防ぐため彼にアントマン・スーツを授ける。ホープは父のために計画に取り組むが、母の死去が原因で父とはギクシャクしたままでアントマンスーツを授けてくれない父に嫌気がさしていた。だがスコットとの出会いによってピム博士はホープにアントマンと同じ技術で作られたワスプとして活躍し、ピム博士の身代わりで世界の危機を救った母のことを打ち上げることで父と娘の絆を取り戻す。家族や娘と離れ離れになっているスコットだからこそピム博士の気持ちが分かるし、ホープには使い捨てのアウトローな自分を通してそんな父親のことを嫌わないでほしいという願いが込められる。これはスコットがヒーローとなることと2つの家族の父と娘の絆を取り戻すことが見事にシンクロする壮大な逆転劇なのだ。

 

マーベル・シネマティック・ユニバースとの繋がりや布石ではやはり「アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン」であまり出番がなかったファルコンとのバトルが目を引く。そしてエンドロール途中ではホープが母を受け継ぎ2代目ワスプになることが暗示され、ラストではファルコンとキャプテン・アメリカ、行方不明だったバッキ―が合流、ファルコンがアントマンを紹介して「Captain America: Civil War」への布石が打たれる。個人的にアントマン=スコットの人間味溢れる魅力や性格が、今後大きなカギを握る予感がする。

 

役者陣の好演も見逃せない。主役であるポール・ラッドのイケメンだけど親近感の湧く魅力とユーモアセンスがなければここまで見ごたえのあるものにはならなかったと思う。マイケル・ダグラスは最初からこのシリーズにいたかのような違和感のなさで映画を引き締める。マイケル・ペーニャの陽気な可愛さ、エヴァンジェリン・リリーのクールなたくましさと優しい眼差しも印象的だ。コリー・ストール演じるイエロージャケットのの悪役振りやデザインなども素晴らしかった。

 

あとスコア好きとしてはクリストフ・ベックのスパイ映画っぽさと王道ヒーローっぽさを兼ね備えたかっこいいスコアも聞き逃せない。今まで彼のスコアはあまり唸らせてくれるようなものを感じなかったのだが今作のメインテーマは一瞬にして虜になるほどかっこいい。特にピアノがいい味を出していると感じた。

 

正直見る前までは「アントマンでフェーズ2を終わらせていいの?」と思っていたのだが、アントマン=スコット・ラングという存在がもしかしたら次のシリーズにおいて大きな鍵を握るのではないかという予感すらさせてくれる。マーベル・シネマティック・ユニバースという巨大なシリーズの一部ではあるが単体の作品として見た時でもそのクオリティは素晴らしく、とても監督降板というトラブルに見舞われた映画とは思えないほど本当によくできている…これこそ「楽しい作品」だ。