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~アダム・サンドラーよ、もっとオタクになれ!~「ピクセル」ネタバレレビュー

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作品概要

NASAが知的地球外生命体との友好交流のためにテレビゲームや大衆文化を載せて発信したメッセージが宣戦布告と誤解されてしまい、今やオヤジとなってしまったゲームチャンピオン達が当時のゲームキャラクターの姿を借りた異星人との戦いに挑むSFコメディ。出演はアダム・サンドラ―、ピータ―・ディンクレイジ、ミシェル・モナハン、ケヴィン・ジェームズ、ジョシュ・ギャッド、アシュレイ・ベンソン、ショーン・ビーンブライアン・コックスなど。監督は「ハリー・ポッターと賢者の石」のクリス・コロンバス

 

 

点数:3.5点(5.0満点、0.5刻み)

※ネタバレを含みますので読まれる方はご注意ください

 

 

子供向け過ぎるくだらなさや雑さなどからくる物足りなさが勿体ないが、ピクセル状のまま現実世界に現れたゲームキャラクターが大暴れする画と落ちぶれたオタク達が世界を救う展開が熱い興奮を生み、最後の最後まで楽しませてくれる作り手のサービス精神のよさが際立つ1作だ。

 

まずこの映画最大の魅力はピクセル状のゲームキャラクター達が現実世界で大暴れする場面だろう。ゲーマーや当時80年代を過ごした者なら誰もが知っているゲームキャラクターが現実に現れ、彼らの攻撃を受けた者や物体は問答無用でピクセル状に分解されてしまうという映像の持つパワーは計り知れないものがある。グアムの米軍基地を攻撃するギャラガタージ・マハルを破壊するアルカノイド、夜空のロンドンを埋め尽くすセンチピート、ビルの隙間に入り込んで揃うとその部分を消し去ってしまうテトリスなど奇想天外な方法で攻撃してくる異星人達とのゲームバトルは見ていて興奮すること間違いなしで、終盤のゲームキャラクター総進撃シークエンスではもはやカオスの様相を示す。特に素晴らしいのがニューヨークを駆け巡るパックマンとの戦いの場面だろう。まるで怪獣映画のような登場で驚かせるパックマンをモンスターのカラーリングに塗られたミニクーパーで追いかけるのだが、この場面はニューヨークというロケーションと実際のゲーム画面が見事に交差した場面だと言える。このように現実がゲームに侵食されていく、またはシンクロしていく感覚がたまらないのである。

 

あと80年代のカルチャーネタも忘れてはならない。流れる楽曲は「We Will Rock You」など当時に流行った曲ばかりで、異星人が地球人へ送るメッセージは全て当時に流行ったものや時代を象徴する映像のモンタージュでできているなど芸が細かい。エンドロールでは物語を振り返りながらゲームドット調のキャラクターが動きまわる楽しいものとなっている。観客を最後まで楽しませることに関して制作陣は意欲的だ。

 

またこの地球最大の危機に立ち向かうのが今や落ちぶれてしまったオタクやボンクラ達というのも見る者を熱くさせる。かつてはゲームチャンピオンと呼ばれていたゲーム少年たちは今ではしがない電気業者や、口を開けば陰謀論ばかりのデブなニート、有名人だけどいろいろやらかして現在は服役中、支持率崖っぷちの大統領と子供の頃に夢見た栄光とは程遠く、女性からモテる訳もなく、周囲からはバカにされている人物達で、軍の幹部からも邪魔者扱いにされてしまう始末だ。だが軍の筋肉バカには任せてられないと長年の感やパターン、テクニックを駆使して地球の危機を救っていく。現実では役立たずでも今そこにある危機は俺たちゲームオタクにしか救えない!オタクだって世界を救えるんだ!とオタク達への応援歌としての面白みがきちんとある。またオタク達へのラブロマンスも用意され、普段は地味なオタク達へ夢を与えてくれる。そして幼き頃のトラウマとも向き合いながら世界の危機を救ってハッピーエンドだ。ゲームオタクに関わらず自分を含めた世の中のオタクと呼ばれる人種のための映画だ。

 

ただアダム・サンドラー自身はオタク達のための映画よりはファミリームービーに徹したいようだ。ニッチなオタクネタは意外と少なく、誰でも楽しめるような過激ではない下ネタや幼稚でくだらないギャグばかり…要はいつもの「アダム・サンドラー印のコメディ映画」である。もちろん誰にでも楽しんでもらうためという気持ちがあるのは分かるのだが、あまりにも子供じみて見えてしまう。特にちょっと幼稚過ぎやしないかと感じたのが、主人公の親友である大統領(そもそも親友が大統領ってどうなの?)が絵本の読み聞かせの際に単語が読めずに馬鹿にされるという場面や、妻とケーキ作りをするときのおどけ方はいくらなんでも幼稚過ぎるしバカすぎるだろうとしか思えない。他にも意味不明な言動ばかりの英国首相やマザコンな軍人などさすがにこういうのは子供っぽくて大人には辛い。映画ネタも無理やりねじ込んでいてしかもそこまでハジけたものはない…まぁ意外と観客は笑っていたので荒唐無稽なバカ映画として目的は達成できているのかもしれない。

 

しかしゲーム関連のギャグはすこぶる面白い。やはりパックマンの生みの親である岩谷教授のエピソードは大爆笑するポイントだろう。あの超有名な「パックマン」を生み出した神との遭遇に思わず流暢な日本語まで飛び出してしまうほと歓喜してしまうオタクの気持ちはよく分かるし、「彼は悪くない!」とパックマンに駆け寄るものの噛まれて腕がピクセル化してしまうくだりは笑ってしまう。やはり荒唐無稽なのは分かっているし、オタクのための映画なのだからもっとニッチに寄り添ってもよかったのではとも思えてしまう。

 

ニッチに寄り添うという意味では全体的な作りの面でも惜しい面や明らかに雑な部分も多い。ゲームの勝利で得られるトロフィーとしてQバートとドッグハントが出てくるのだが前者は積極的に絡んでくるのだが後者は一瞬ギャグとしてしか描かれない雑な扱いだったり、わざわざオリジナルのゲームを出してまでラブロマンスを入れようとする強引さ、トントン拍子に進むわりに意味不明な展開の多い脚本、徐々にゲームらしいルールが薄れていきがちなアクションなどもっと面白くできそうな余地がたくさんあるような気がする。特に勿体ないのが一番破壊の限りと尽くしてくれそうなボス戦ドンキーコングは別空間での戦いにしてしまう所だ。現実世界にゲームが浸食していく面白味を肝心のボス戦で無くしてしまうとは…個人的にドンキーコングがタルを投げまくってビルを壊しまくる姿が見てみたかった。

 

役者陣では全く代わり映えのしないアダム・サンドラーや意外と流暢な日本語を話すジョシュ・ギャッド、小さいけれどワイルドな色気ムンムンなピーター・ディンクレイジ、こちらも全く変わり映えしない親友ポジションのケヴィン・ジェームズ、大人っぽいけどキュートなミシェル・モナハン、まさかの使い方で登場するショーン・ビーンブライアン・コックスなど個性的なメンバーが揃っている。またヘンリー・ジャックマンの敢えてピコピコとしたシンセ音を排したフルオケのアクションスコアもかっこよかった。

 

ファミリームービー寄りなために過激な面白さはないが、大興奮間違いなしな展開もあり、誰でも楽しめるいい意味でのバカ映画としてはなかなかの秀作だろう。まさにアーケードゲームという名のおもちゃ箱をひっくり返したような夢溢れる映画だ。これでもっとオタク向けにニッチに寄っていたら…もっと好きになれたかもしれない。