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~最高になり得たはずの4人とジョシュ・トランクの暴走~「ファンタスティック・フォー 」ネタバレレビュー

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作品概要

異次元と地球を繋ぐゲートを開発していた科学者と技術者たちが、異次元の先にある惑星の謎のエネルギーを浴びたことによって体が激変してしまうほどの特殊能力を持ってしまい、そのパワーに悩みながらも巨大な悪と戦うマーベルコミック「ファンタスティック・フォー」を装いを新たにリブート。出演はマイルズ・テラー、ケイト・マーラ、マイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・ベル、トビー・ケベル、レグ・E・キャシーなど。監督は「クロニクル」のジョシュ・トランク

 

 

点数:2.5点(5.0点満点、0.5刻み)

※ネタバレを含みますので読まれる方はご注意ください

 

 

ジョシュ・トランクの作家性が新生ファンタスティック・フォーに命を吹き込み、新たな物語が紡ごうとしていた時のエッセンスが名残として残っている分、傑作になり得たはずなのになれなかったという現実が重くのしかかる。

 

自分は原作漫画を一切読んだことがないし、かつて制作された「ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]」や「ファンタスティック・フォー 銀河の危機」も見た記憶が曖昧になっているほどなので「ファンタスティック・フォー」自体にそんなに思い入れがない。だが今作の監督がジョシュ・トランクであることが重要だ。彼の作家性が存分に注入されていて、今作を監督するきっかけでもある「クロニクル」という作品が大好きで、その年のベスト10に入れるほど個人的に愛すべき作品だと個人的に思っている。

 

そして今作にもジョシュ・トランクの作家性が如実に出ている部分が多く見受けられる。小学生の頃から異次元への移動を目的としたゲートの制作を試み、それ故に先生や同級生、親からも理解されない不遇な少年時代を過ごし、事故によって仲間達が特殊な能力を得てしまったことに自責の念を感じて更に孤独になるMr.ファンタスティックことリード・リチャーズや、人一倍優しくてリードを唯一理解しているが兄からはいじめられてばかりの少年時代を過ごし、事故後にリードが自分を見捨てて逃げたことへの怒りを抱えたまま軍の戦力として働くザ・シングことベン・グリム、父が養子に迎えられた出来の良い養妹にばかりに目を向けていて自分のことを見てくれていないという疎外感や嫉妬を秘めたまま自分もベンのように戦地に赴いて活躍できるような必要とされる人になりたいと願うヒューマン・トーチことジョニー・ストーム、内向的で養妹という立場もあってかどこか孤独を抱えたスーザン・ストーム、スーザンに恋をしているがリードとの親密な関係に嫉妬し、事故によって惑星に取り残されて最終的にDr.ドゥームという破壊論者になってしまうビクター・フォン・ドゥームなどキャラクターには大きな負の感情が課せられている。

 

また事故によって能力を持ってしまった4人にはヒーローになるという爽快感はなく、不本意な能力を持ってしまったという悲哀と過酷な運命が付きまとう。自分の体が異常に伸びる、体が透明になる、炎まみれの体で周囲を焼き尽くす、岩まみれでまるでフランケンシュタインを連想させるほど崩れた容姿になるなどそのパワーの描き方は怪奇映画のようだ(デヴィッド・クローネンバーグを意識しているとのこと)。マルコ・ベルトラミフィリップ・グラスのスコアもヒーローやSFらしいワクワクさを感じさせながらもダニー・エルフマンの怪奇スコアを超シリアスに煮詰めたかのような不気味でどこか悲しいスコアが多い。あとこじつけだけどリードの少年時代に作ったゲート装置のCPUにNINTENDO64が登場する、ジョニーのストリートカーレースの描写で出てくる車が全部日本車(恐らくMR-2、CR-X、サバンナRX-7)など日本にゆかりのあるものが出てくるのも「AKIRA」のオマージュ満載な「クロニクル」を作り上げた監督だけあるなと感じる。

 

つまりこの映画は運命に引き裂かれてしまう友情、誰からも認められない孤独、嫉妬や自責の暴走、異形の能力を得てしまったことへの悲哀などジョシュ・トランクが得意とするナイーブで弱い人間への悲しみと過酷な運命を描く物語なのである。自分はこれほどまでにジョシュ・トランクらしさが出ていて嬉しかったし、どんなに貶されようとも心の中の傑作として胸に残る作品だろうと思った。

 

だが今作はアメコミヒーロー大作という使命を持った映画だったことが不運の始まりだった。ジョシュ・トランクらしさが増せば増すほどに配給会社が求めていたであろう映画とはかけ離れていってしまうのである。これは自分の考えた勝手な憶測だがジョシュ・トランクは自分の作家性をヒーロー映画の枠組みを超えて押し通そうとしたのだろうが、結局作家性と配給会社との板ばさみにあって荒んでいき、脚本のリライトや追加撮影、俳優との不仲に繋がって、最終的に編集権が与えられなかったのではと思われる。そしてジョシュ・トランクらしさと配給会社が求めていたアメコミヒーロー映画との調和を無理に補正しようとしたためにはっきり言って映画の作りや出来栄えは悲惨なことになっている。事故においてベンを無理やり関わらせる唐突さやスーザンの取って付けたかのような扱い、ヒーローとして成長ぶりや過程はすっぽかされて、アクションは最後にしかなく、そのアクションも凡庸でチームワークが大事なのにまとまりがない、時間経過がほとんど感じられずぶつ切り、うまいと思って書いたであろう伏線や台詞が空回り、間延びした構成…これは残念ながら面白くないと言わざるを得ない。ジョシュ・トランクのエッセンスは補正されてツギハギでその要素を残すだけ…不遇過ぎるとしか言えない。ズタボロにされて残骸だけ残されたジョシュ・トランクのエッセンスはこの映画における事故以降に全くといっていいほど内面や葛藤が描写されずに急に破壊論者に堕ちてしまうDr.ドゥームの姿そのものである。悲しい…悲しすぎる…

 

そんな悲惨な出来栄えの映画だが役者陣の好演は見逃せない。特にマイルズ・テラーのボンクラ感や根暗なイメージは最高にハマっていて、必死に悩んで運命に抗おうとする姿は感動的だ。また細かい所作もまさに冴えないオタクのようで素晴らしい。ケイト・マーラも美しくてクールビューティだし、マイケル・B・ジョーダンのイケイケな感じやジェイミー・ベルも途中から原型をとどめていないにも関わらず十分な演技力を発揮する。トビー・ケベルもなかなか味わい深い演技を見せてくれるが残念なことにキャラクターがとんでもなく薄いためにその内実が伴わないのが惜しい。

 

こんなにも自分の大好きな要素が入っていて、求めていたジョシュ・トランクのエッセンスが残っているのにチグハグに並んだ物語の前には感慨も湧かない。自分の心の中の傑作、あるいはカルト作になることができるポテンシャルがあるはずなのにこの映画を面白くないと言わないといけない現実に涙が出る…本当に悲しい。