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頭の中の感想置き場

映画、アニメを中心に感想や想いを綴っていきます

~たった1作だけなのが実に惜しい最高の2代目ジェームズ・ボンド~「女王陛下の007」ネタバレレビュー

映画レビュー

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作品概要

MI6の凄腕スパイであるジェームズ・ボンドは、道中出会ったトレーシーという女性と恋に落ちながらも、宿敵であるブロフェルトの悪事を阻止すべくアルプスの一角に存在するアレルギー研究所に潜入する007シリーズ第6作。出演はジョージ・レーゼンビー、ダイアナ・リグ、テリー・サバラス、バーナード・リー、デスモンド・リュウェリン、ロイス・マクスウェル、ガブリエル・フェルゼッティ、イルゼ・ステパットなど。監督は以前の007シリーズで編集を務めたピーター・ハント

 

点数:4.5点(5.0点満点、0.5刻み)

※ネタバレを含みますので読まれる方はご注意ください

 

 

ジェームズ・ボンドが初めて本気で愛した女性の登場や宿命の敵であるブロフェルドの因縁などショーン・コネリー版シリーズよりも硬派な画作りとハードボイルドな要素満載で、これが当時評判が悪かったというのがちょっと信じられないほど素晴らしかった。

 

はじめに自分の007シリーズへの距離感について先に述べておきたい。正直言うと007=ジェームズ・ボンドというキャラクターやシリーズのお決まりというのをなんとなく知っているぐらいで、鑑賞しているのも現ジェームズ・ボンドであるダニエル・クレイグ版の3作品ぐらいしかまともに見ていない。そんな現在の硬派でハードボイルド、エレガントな作風が大好きである自分にとって今作は最高にハードボイルドで切ない1作であった。

 

まず行く先々で浮き名を流し続けるジェームズ・ボンドがトレーシーという名の女性と恋をに落ちてしまう展開にハードボイルドさと死の匂いを感じずにはいられない。ジェームズ・ボンドといえばミッションや休暇中に様々な女性とベットインしているイメージがあると思うのだが、そんな彼が本気の恋をしてしまうというのである。そんな彼を射止めたトレーシーという女性は、行く先々でまるで死を望んでいるかのような危険な振る舞いをする女性で、彼女の父親で犯罪組織をまとめ上げるドラコも手を焼いているほどだ。ジェームズ・ボンドはドラコが持つブロフェルドの情報と引き換えに、彼女との結婚をせがまれる。最初はブロフェルドの情報を得るだけのはずのボンドだったが、どんどん自ら死を選ぶかのような危うい彼女に惹かれていく。それはどんどん危険なことに突っ込んでいくジェームズ・ボンド自身と重なる。そしてブロフェルドの基地から逃げるボンドの前に現れたトレーシーは二人でスケート場の人ごみを抜け出し、一緒にカーアクションやスキーアクションもこなし、更に愛を深めていく。

 

だがトレーシーとの恋が加速していく度に、ブロフェルドとの戦いも過激になっていく。ブロフェルドはアルプスの一角に建てられたアレルギー研究所で、患者に催眠術をかけて細菌兵器をばらまいて世界経済の転覆を狙う。国連もウィルスに太刀打ちできないことからブロフェルドの要求を受け入れる姿勢を示し、Mもジェームズ・ボンドを任務から外す。だが今までのシリーズにおいて幾度となく戦いながらも、未だに決着がついていないボンドとブロフェルドとの関係はそんなものでは片付かない。ボンドは今度こそ最強の敵であるブロフェルドを倒そうとMからの命令も無視してアレルギー研究所に潜入し、途中で合流したトレーシーと共に研究所から脱出、ブロフェルドに捕えられたトレーシーをドラコと共に救出し研究所を爆破する。一方、スペクターのボスであるブロフェルドもまたボンドを抹殺するべく自ら出向いてスキーアクションを繰り広げ、雪崩を引き起こしてボンドを窮地に陥れると同時にトレーシーを捕える。凄まじい戦いを続ける二人は最後にボブスレー上での死闘を繰り広げ、ついにブロフェルドを倒す。

 

そうしてボンドとトレーシーは結婚式を挙げ、幸せの絶頂の中で旅に出る。だが彼らに突然悲劇が襲い掛かる。なんとブロフェルドは生きていて、一瞬のうちにトレーシーを殺害してしまうのだ。通りかかった警察にも「彼女は疲れて休んでいるだけだ」と気丈に振る舞るが、その悲しみや涙は隠せず、物語はあっけなく終わってしまう…あのボンドが結婚までするほどに愛した女性があっけなく最大のライバルに殺されてしまうという結末と有無を言わさず示される映画の終わりに切なさで胸いっぱいになる。この気持ちは初めて「カジノ・ロワイヤル」を見た時に感じたハードボイルドさと切なさと重なる。深く愛することがほとんどないからこそ、その愛のかけがえのなさは計り知れないものとなる。

 

またアクション面や演出もかなりハードボイルドだ。ガンバレル後のアクションシークエンスで、2代目であるジョージ・レーゼンビーの顔に影がかかり、タバコを吹かす手元やミラーを確認する視線など細かい所作にフォーカスして、なかなか彼の顔を見せないというじらしテクニックが既にかっこよくて痺れるし、今までのシリーズにあったちょっと荒唐無稽ギリギリな秘密道具等は鳴りを潜め、一つ一つの車やお酒に対するこだわりが垣間見えるあたりがハードボイルドさを演出する。だからといってシリーズのお決まりをないがしろにしているわけではなく、例えば帽子を投げて帽子掛けに掛けるお決まりの場面は健在で、しかも最後の結婚式で最高にかっこよくて切ない伏線として生かされるし、ボンドの自己紹介もきちんと存在する。「007 ゴールドフィンガー」のメインテーマを口ずさむキャラクターがいるなどの小ネタも微笑ましいし、最後のトレーシーの死を嘆くシーンでは顔を見せずに終わるというのも味わい深い。

 

そして極め付けはスキーアクションだ。007オタクを公言するクリストファー・ノーランが「インセプション」でオマージュしたというスキーアクションは雄大なアルプスの自然をバックに怒涛の勢いで行われるのだが、めまぐるしいスピードの中で華麗に魅せるスキーテクニックはもちろん、片足のスキー板だけで滑り降りるアクロバティックな場面など臨場感と危機感溢れている。はっきり言って「インセプション」のスキーアクションより今作のスキーシーンの方が断然出来はいいし、今の映画でもなかなか真似できないほどにかっこいい場面だ。またボブスレー上の決闘も手に汗握る展開で見応えありで全編に渡りウィンタースポーツ一色となっている。あとはOPが砂時計が大きなモチーフとなっているOPも印象的で、ジョン・バリー・オーケストラによるメインテーマも最高にかっこいい。

 

最後になるがやはりジョージ・レーゼンビーの魅力について触れない訳にはいかない。初代ジェームズ・ボンドであるショーン・コネリーよりも無骨で、それでいて人間味溢れる脆さが今作のハードボイルドな作風とすごくマッチしていると感じた。二十顎とちょっとタレ目気味な瞳もチャーミングだ。ヒロインのトレーシー役のダイアナ・リグもどこか冷めた目線が最高にクールで、だんだんその瞳や表情が柔らかくなるのが印象的だ。ブロフェルド役のテリー・サバラスの眼光の鋭さやねっとりとした低音声が印象的で、しかも体躯も頑丈そうでまさしくボンド最大の敵に相応しい風格を持っていると言える。ブロフェルドという悪役は自分の中で弱々しいイメージがあったのだが、今作を見てそのイメージは一新された。

 

 ショーン・コネリー全盛期だったこともあってか、ジョージ・レーゼンビーのジェームズ・ボンドは当時あまり評価が高くなかったそうで、結局彼のボンドはこれ1作のみとなってしまった。だがそのエレガントさ、ハードボイルドさは現在のダニエル・クレイグ版ボンドに通じるものがあるし、ようやく時代がジョージ・レーゼンビー版ボンドに追いついたのかもしれない。彼のジェームズ・ボンドがたった1作のみなのはとても悲しいが、だからこそこの作品が神格化されるのかもしれない。