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~くすぶっていた魂達が燃え上がる最高のシンデレラストーリー~「ロッキー」ネタバレレビュー

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作品概要

フィラデルフィアで落ちぶれた生活をしている三流ボクサーのロッキー・バルボアが、周囲の人々の応援を受けながら過酷なトレーニングを耐え抜き、世界ヘビー級チャンピオンであるアポロ・クリードとのタイトルマッチに挑む姿を描くロッキーシリーズ第1作。出演はシルヴェスター・スタローン、タリア・シャイア、バート・ヤング、バージェス・メレディス、トニー・バートン、ジョー・スパイネル、カール・ウェザースなど。監督は「ベスト・キッド」のジョン・G・アヴィルドセン。

 

 

点数:5.0点(5.0点満点、0.5刻み)

※ネタバレを含みますので読まれる方はご注意ください

 

 

今までくすぶっていた想いを抱えたロッキーが、同じように何かを抱え込んだ登場人物達と共に最高の舞台に立つまでのドラマが見る者を熱くさせると共に、それまで抱えていた想いやささやかな幸せがグッと胸に来る切ない1本だ。

 

今作に登場する登場人物達はどうしようもない自分の人生や抱え込んだままの想いに引きずられていて、そんな彼らの生活やドラマからにじみ出る切なさをじっくり描き出す。主人公のロッキー・バルボアフィラデルフィアで活動する素質あるボクサーだが、ボクシングのファイトマネーだけでは生活できず、知人であるガッツォの高利貸しの取り立て業でなんとか生活していて、唯一の癒しは密かに恋している親友ポーリーの妹であるエイドリアンとの会話だった。そんな自堕落な生活を送り、結果を残せないでいるロッキーにトレーナーのミッキーは愛想を尽かしている始末だ。一方エイドリアンも内気で人見知りな性格もあってロッキーのことを遠ざけてしまいポーリーからは行き遅れと罵られ、ポーリーも精肉工場で働く自分の冴えない人生に嫌気が差していて、ロッキーに八つ当たりしながら、自分をガッツォの取り立て人に推薦してくれと頼み込んでいた。

 

だが彼らの生活や抱え込んだ想いは少しずつ変化が訪れる。エイドリアンはロッキーのエスコートもあってかだんだん仲も深まり二人は距離を縮めていく…二人を繋ぐのはどうしようもない人生にやり場のないまま抱え込んだ想いだ。ポーリーも憎まれ口を叩きながらもエイドリアンを好いてくれるロッキーに感謝する。そんな中でロッキーにあるチャンスが舞い込んでくる。なんと世界ヘビー級チャンピオンであるアポロ・クリードとのタイトルマッチが決まったのだ。対戦予定のファイターの欠場が原因で次回の試合に困ったアポロが、無名の新人にアメリカンドリームを夢見させることで更に人気を上げようと考えた企画で、ロッキーが選ばれた理由も「イタリアの種馬」というニックネームに惹かれてなんとなく選ばれただけだった。

 

そして最初で最後のチャンスをもらったロッキーは試合に向けて戦いを始める…だが彼の戦いは一人ではない。エイドリアンはずっとロッキーの身を案じる。ミッキーはお互いに抱え込んだ気持ちを打ち明けて和解し、マネージャーとしてロッキーを支える。ポーリーはロッキーと共に変わるべくスポンサーとして支える。みんながそれぞれの人生と想いをロッキーに託し、ロッキーは過酷なトレーニングに身を投じる。だがロッキーは試合前日にエイドリアンにこう告げる「この試合に絶対勝てない、だがこの試合で生き残れたら自分はどうしようもない人間ではないと証明できる、だから見守ってほしい」と。

 

そんな想いを胸にロッキーはアポロとの死闘を繰り広げる。無名の新人だし手加減しても大丈夫かと油断していたアポロはロッキーの執念に驚き、本気を出したアポロのパンチを受け続けても倒れないロッキーにエイドリアンは思わず目を背け、観客たちは熱狂し始める。そして試合終了まで立ち続けたロッキーは、試合には判定負けしたものの、自分はやり切ったんだという高揚感に満ち溢れ、インタビュアーの質問には目もくれずにエイドリアンの名前を叫び続ける。そんなロッキーを抱きしめるエイドリアンの姿で幕を閉じる…ロッキーはアポロとの試合に負けて、人生という名の勝負に勝ったのだ。彼らの切ない人間ドラマを見てきたからこそ、その想いが昇華されて全てを手に入れた瞬間に最高のカタルシスを感じるのだ。

 

またこのシンデレラストーリーがシルヴェスター・スタローン自身の人生と重なってくるのが、今作を更に神格化させる。ロッキーと同じように役者だけでは生活できずに他の仕事と掛け持ちでなんとか生きながらえてきたスタローンが、今作の脚本を書き上げて予算の少ない中でなんとか精一杯に奮闘して映画を完成させて、最終的に全米で大ヒット、アカデミー賞受賞まで成し遂げ、自身もスターとしての道を歩み始めるというのは、もはや映画がもたらした奇跡としか言いようがないだろう。これぞ最高のアメリカンドリームだ。

 

そして作りや演出も少ない予算の中で最大限の努力をした結果が表れている。予算が少ないことでチープな映画になると思われがちだが、そのチープさの中で最大限魅せようとする志が、ロッキー達の「やることのできる範囲で精一杯やってやる!」という人間ドラマとすごく合致しているのだ。例えば寒々しくてどこか錆びれたような雰囲気があるフィラデルフィアの情景はチープな画も相まって、丁寧に作りこまれた人間ドラマとマッチして切なさを増幅させている。特にエイドリアンとロッキーのスケート場でのデートやロッキーの自宅での会話、ミッキーとの衝突からの和解など、不器用でぎこちないからこそグッとくる展開には何とも言えない切なさや侘しさが滲み出ていると言ってもいいと思う。またそこまで主流ではなかったステディカムを本格的に導入したことでトレーニング風景や何気ない日常を美しく滑らかに映し出してくれる。そんなトレーニング中のロッキーは実際に過酷なトレーニングの情景を魅せ、ランニングシーンではビル・コンティ作曲のメインテーマもあってか爽快感を感じさせてくれる…フィラデルフィア美術館の階段(通称:ロッキー・ステップ)で高らかに両手を挙げるロッキーのなんとまぶしいことか。そしてクライマックスにあたるアポロ戦ではまるでその会場で試合を見ているような臨場感溢れる場面の連続で、両者共に腫れあがった顔やパンチの応酬含めて壮絶さを物語る。

 

更に役者陣の魅力も光る。シルヴェスター・スタローンの犬顔が人生の苦悩を滲ませ、全ての苦痛に負けないような打たれ強さを感じさせる。また彼の鍛え抜かれた肉体から繰り出されるパンチなど素晴らしいパフォーマンスも見物だ。他にもタリア・シャイアの弱々しいけれど、だんだん強く自分らしさを出していく姿や、バート・ヤングのうっとおしいけど憎めない雰囲気、カール・ウェザースのたくましい体躯と俊敏な体技含めた黒人らしい陽気なチャラさ、バージェス・メレディスの口うるさいジジイぶりなど誰もが個性的で印象的なキャラクターを演じてくれる。彼らの演技や体技があってこそだ。

 

実は見る前まで「ただひたすらロッキーがトレーニングして試合に勝つ話」だと思っていたのだが、拭えない不遇さやどうしようもない人生に生きるロッキー達の切なさがこんなにも胸に突き刺さる映画だとは思ってもみなかった。そんなロッキーの挑戦と全てを勝ち取る瞬間にこれ以上ないほどのカタルシスが待っている…まさに最高のシンデレラストーリーであり、負け犬達への応援歌的な映画と言えるだろう。