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~蘇った「遠い昔、はるか彼方の銀河系」で紡がれる伝説のリフレインと新たな覚醒~「スター・ウォーズ フォースの覚醒」ネタバレレビュー

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作品概要

ルーク・スカイウォーカーレイア姫ハン・ソロ率いる反乱軍によって皇帝が支配する帝国が崩壊して平和がもたらされてから数十年が経ったはるか彼方の銀河で、新たな運命に導かれた登場人物達の新たな銀河の戦いを描くスター・ウォーズシリーズ第7作。出演はデイジー・リドリー、ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザック、アダム・ドライバー、ドーナル・グリーソン、ルピタ・ニョンゴアンディ・サーキスマックス・フォン・シドー、ピーター・メイヒュー、アンソニー・ダニエルズ、ケニー・ベイカー、キャリー・フィッシャーハリソン・フォードマーク・ハミルなど。監督は「スター・トレック イントゥ・ダークネス」のJ・J・エイブラムス

 

 

点数:5.0点(5.0点満点、0.5刻み)

※ネタバレを含みますので読まれる方はご注意ください

 

 

旧3部作で描かれた世界観やストーリーへの懐かしさを覚えさせながらも、全く新しい伝説を描き出して次にバトンタッチさせるという過去と今を繋ぎとめて新たな未来を描く離れ業を見事にやってのけた傑作だ。

 

スター・ウォーズシリーズが完結してから10年の時が経ちついに待望の新シリーズが製作される…しかもあの旧3部作のその後の世界を描くというのだ。ファンや観客は新たな新作に期待しながらもどこか不安な気持ちも捨てきれなかったと思う。何しろ旧3部作と呼ばれるエピソード4~6はもはや神格化されるほどの傑作でしっかりと完結してしまっているし、かつて「新たな新作」として待ち焦がれた新3部作ことエピソード1~3はファンや観客の期待を裏切り続けてきたと聞く(自分は新3部作世代なのですごく楽しんだ方なのだが)。しかももう続編やスピンオフの製作も決定しているのだ。皆を納得させるような新たなシリーズを作る…ここまでファンや観客を熱狂の渦に巻き込んで伝説となったシリーズの続編を描くのは並大抵のことではない。だが今作はそんな難題を軽々と成し遂げてしまう。

 

まず素晴らしいのは誰もが愛し憧れたであろう「遠い昔、はるか彼方の銀河系」が見事に蘇り、旧3部作で描かれた展開や描写を見事にトレースしている所だろう。例えばマクガフィンを巡って、何も知らない若者達が正義と悪の戦いに巻き込まれていく過程で成長していき、クライマックスで巨大な惑星破壊兵器を破壊する戦いに挑むという今作のストーリー展開は完全に「エピソード4 新たなる希望」のストーリー展開を忠実にトレースしているし、異星人達やメカニックデザインも旧3部作のテイストを残しながらもきちんと現代らしい発展を遂げたテイストとなっている。しかも異星人達やミレニアム・ファルコン号をはじめとしたメカニックなどは出来る限りCGに頼らずにきちんとセットや特殊メイクで作り出していることで、旧3部作らしいアナログ感やレトロな雰囲気が感じられる。他にも過去作のセリフオマージュや、タトゥイーンの酒場を連想させるマズ・カナタの酒場、デス・スター攻略戦を連想させる細い空間で繰り広げられるX-ウィングとTIEファイターのドックファイト、ルークとダース・ベイダーの親子関係とオビ=ワンとダース・ベイダーの師弟関係の末路を連想させるある展開、若き主人公達の絆と成長、そして喪失…かつてみんなが熱狂した旧3部作の「スター・ウォーズ」の世界がきちんと蘇ったのだ。

 

だが今作は旧3部作へのオマージュがメインではない。今作からの新キャラクター達が紡ぎ出す物語こそが今作のメインだ。今作の3人の主人公と1人のヴィランはかつての旧3部作の主人公達のように率先して運命に飛び込んでいくようなヒーローでも絶対的な強さを誇るヴィランではない。彼らは悩める葛藤やトラウマを抱えた一人の人間として描かれ、図らずも運命に導かれて成長を遂げていくのだ。

 

まず1人目の主人公であるレイは、砂漠の惑星ジャクーでジャンク品を売りながら、いつか迎えに来る家族を一人で待ち続ける少女だ。そんな彼女はスカイウォーカーの地図を持ったBB-8と出会うことで、ファースト・オーダーとレジスタンスの戦いに巻き込まれて広大な宇宙に飛び出すことになる。まるでかつてタトゥイーンで貧しい生活を送り広大な宇宙に羽ばたきたいと願っていたルークがR2-D2C-3POと出会って大きな運命に導かれていく展開を彷彿とさせるのだが、レイは広大な宇宙を夢見ていたルークとは違い、幼い頃に生き別れてしまった家族が戻ってくることを信じ続けてジャクーに残り続けることに固執していた。主人公の1人であるフィンやハン・ソロとの冒険の最中でも最終的に自分はジャクーに戻ると何度も宣言していた。だがファースト・オーダーとの戦いの中でルークのライトセーバーに触れた彼女は、自分の中に眠るフォースに気付かされ、カイロ・レンとの戦いで彼女は本格的フォースを覚醒させる。そしてレイはチューバッカR2-D2と共にカイロ・レンの裏切りによって育てていたパダワンを殺されて一人孤独に過ごしていたルークに会いに行くことになる…留まることに固執していたレイはいつの間にか大きな運命に巻き込まれていくこととなるのだった。

 

一方、2人目の主人公であるフィンはどこか遠くの宇宙に行くことを望み続ける…だがそれはルークのような希望に満ちた夢ではない。彼は幼い頃にファースト・オーダーに捕えられてそのまま兵士として訓練させられてきたストーム・トルーパーで、初めての戦場に出た時に見た無残な殺戮を目撃した彼はファースト・オーダーの残虐性に気付き、捕えられていた主人公の1人であるレジスタンス所属パイロットのポー・ダメロンと共にスター・デストロイヤーを逃亡する。一刻も早くファースト・オーダーの手の届かないような遠くへ逃げるためだ。だが逃亡に使用したTIEファイターはジャクーに不時着し、そこで出会ったレイとBB-8と共にスカイウォーカーの地図を巡る戦いに巻き込まれていく。最初はファースト・オーダーから逃げることだけを考えていたフィンだったが、戦いの中でポーやレイとの絆を深めていくうちに大きく成長していき、レイを守るためにフォースも使えないのに自らライトセーバーを手に取りカイロ・レンと戦う…かつては駆け出しの未熟者だったルークが成長を遂げたように、逃げることだけを考えていたボンクラなストーム・トルーパーは1人の人間としても戦士としても覚醒していくのだった。

 

3人目の主人公であるポー・ダメロンは既にレジスタンスの名パイロットとして相棒のBB-8と共に名を馳せていた。彼はレイア姫からの密命で謎の老人からスカイウォーカーの地図を受け取るものの、ファースト・オーダーの襲撃に巻き込まれて、地図をBB-8に託して自身は囚われの身となってしまう。これがきっかけとなりレイやフィンは大きな運命に導かれることとなるわけだが、ファースト・オーダーからの逃亡の際に一緒に戦ったフィンとは固い絆で結ばれることとなり、クライマックスでのスター・キラー破壊作戦ではかつてのルークのような活躍ぶりを見せるのだった。つまりレイ、フィン、ポーはそれぞれルークの人間性や特徴を受け継いだキャラクターだと言えるだろう。またBB-8の愛くるしさも忘れてはいけない。R2-D2よりも表情豊かでコミカルな動きが可愛らしく、登場人物達との掛け合いでバーナーでサムズアップするなどコメディセンスも抜群で見る者を確実に虜にしてしまうだろう。

 

そして今回のヴィランであるカイロ・レンもまた、大きな運命に導かれて悪の道を突き進んでいくこととなる。彼はなんとハン・ソロとレイアとの間に生まれた息子で、ルークの元でジェダイになるべく訓練を積んでいたのだが、ファースト・オーダーの指導者であるスノークによって暗黒面に堕ちて、ルークの弟子たちを皆殺しにしたのだった。だが彼はまだまだ未熟で自分の内なる正義と悪の狭間に揺れ動く。そんな彼はハン・ソロとレイアの息子という自分の聖なる血筋を呪い続け、自分の祖父であるダース・ベイダーのメットにすがることでなんとか正気と保っていた。そしてスター・キラー破壊作戦中に、ハン・ソロと対峙したカイロ・レンは自らの手で父を殺して悪の道へと覚醒するのだった。だがハン・ソロの死レイやフィンを大きく覚醒させることとなり、自分のフォースを打ち負かしてしまうほどの素質を持ったレイによって彼は深手を負ってしまう…まだまだ未熟さが残っていたカイロ・レンだが、自らの父の殺すことによって悪へと覚醒し、暗黒面へと突き進んでいくのだった。彼の本名がベンというのもなんだか因果な関係を連想させる。このように現代的な設定を持った新たなキャラクター達の内面が深く描かれたからこそ、今作が新世代の「スター・ウォーズ」となった要因だろう。

 

また旧3部作の主人公達の活躍もきちんと用意されているのもファンには嬉しいポイントでもある(ファンにとって悲しい展開もあるが)。ルークは一切姿を見せずに威光を放ち続け、ラストで遂にその姿を現す…レイが彼のライトセーバーを渡す場面は今後の物語がどうなっていくのかというワクワクもあって最高にカタルシスのある場面だ。レイア姫レジスタンスのリーダーとしてもリーダーシップを発揮し、ハン・ソロの妻としてもカイロ・レンの母としても物語を支える。またハン・ソロとチューバッカは劇中で新たな主人公達を導く存在として大活躍する。「チューイ、我が家だぞ」と言いながら初登場する場面は最高の名シーンだし、自らが生き証人としてジェダイの存在や自分達の伝説をレイたちに語る場面は鳥肌ものだ。そして遂に対峙した息子のカイロ・レンによって殺されてしまう展開はとても悲しくもあり、新たな物語のターニングポイントとしてのバトンタッチのようにも感じた。もちろんC-3POR2-D2も登場し、シリーズのファンをニヤニヤさせる。

 

そして忘れてはならないのはJ・J・エイブラムスによる演出とローレンス・カスダンによる脚本だ。前述した旧3部作の雰囲気づくりと目配せをしながら、今の娯楽映画らしいエモーション溢れる展開をきちんとした塩梅で描いているのだ。フィンとポーの逃亡劇からのレイとフィンのチェイスシーンというアクションのつるべ落としは物語を加速度的に盛り上げていくし、キャラクター達のセリフ回しや掛け合いは今っぽいユーモアに溢れながらも、そのキャラクター達のことを愛したくなるほど魅力的に描く。他にも長回しを駆使した演出や目まぐるしく視点が変わるドックファイト、キャラクター達のドラマが集約するまだまだ未熟な者同士のライトセーバーのぶつかり合いなどかつてないほどに真っ当な映画に思える。ジョン・ウィリアムズのスコアも相変わらず絶好調で、お馴染みのフレーズがフッと顔を出してくる場面では思わず鳥肌が立つ。新しく作曲されたレイのテーマも素晴らしい出来栄えだ。

 

だが映画として大きな欠点もある。例えば銀色のアーマーを身にまとったストーム・トルーパーのリーダーであるキャプテン・ファズマは、フィンとハン・ソロ一行に脅されてシールドを解除したらそのまま映画からフェードアウトしていくという勿体ない扱いだし、ジャクーに不時着した際にはフィンしかいなかったのに、何の説明もなくポーが生きているなど大きな欠点が目に付いてしまう。いろいろやりようはあったはずなのだが、もはや「スター・ウォーズ」という神話の前にはそんな欠点は些細なものとなってしまうというものだ。

 

最後に役者陣についてだが、やはりレイ役のデイジー・リドリーとフィン役のジョン・ボイエガ、カイロ・レン役のアダム・ドライバー、ポー・ダメロン役のオスカー・アイザックが素晴らしい。デイジー・リドリーの凛としていてちょっと汚れが似合うようなかっこよさがまさにスター・ウォーズのヒロインであり主人公たる風格があるし、ジョン・ボイエガのボンクラヤンキーぶりは感情移入させられるとともにちょっと情けなさもあって愛らしい。アダム・ドライバーについては身長の高さやちょっと端正な顔立ちが不器用でまだまだ未熟な印象を抱かせるし、オスカー・アイザックは今まで悪役やちょっと屈折した役が多いイメージのあったのだが、今回は頼りがいのある好青年を演じていて新鮮だった。他にも今までの出演作の中でも最高の演技を見せるハン・ソロ役のハリソン・フォードや、佇まいだけでどこか安心感のあるレイア姫役のキャリー・フィッシャー、草食系で穏やかなイメージから一転して暗くて冷徹な将軍を演じるドーナル・グリーソン、モーション・キャプチャーで存在感を発揮するルピタ・ニョンゴアンディ・サーキス、どれだけ年を重ねてもかっこいい我らのヒーローであるルーク・スカイウォーカー役のマーク・ハミルなど素晴らしい演技を見せてくれる…役者陣の好演も見事だ。あと「ザ・レイド」でお馴染みのイコ・ウワイスとヤヤン・ルヒアンがハン・ソロを狙うカンジ・クラブのメンバーとしてコンビで登場したり、レイをこき使うジャンク屋を演じるのがサイモン・ペッグだったりと意外な役者陣がちょい役で出演していて彼らを見つけるのも楽しいかもしれない。またダニエル・クレイグや劇伴作曲家のマイケル・ジアッキーノがストーム・トルーパーとして登場しているらしい。自分はまだ確認出来ていないのでここはもう一度確認したいところだ。

 

ファンを納得させるような世界観の広がりやオマージュもやりつつ、新しく「スター・ウォーズ」に触れる人達にもきちんと納得できるような現代的で新しい物語を紡ぎ出す…長年の時を超えて「スター・ウォーズ」という神話は新たなスタートを見事に切ったのだ。これからはマックス・フォン・シドー演じる老人の正体やレイの出自、レイがルークのライトセーバーを持ったときに描かれたイメージの意味、レン騎士団の詳細とファースト・オーダーの指導者スノークの詳細など今後の伏線についていろいろ妄想を膨らませつつ、エピソード8の公開を待っていようと思う。

 

(余談)

自分は公開日である18日の初回18:30開始回のチケットではなく、その次の回で今作を鑑賞したのだが、オープニングや数々の名キャラクター達が初登場する場面、エンディングで観客の拍手が巻き起こるという貴重な劇場体験をすることが出来た。なんだか「映画館で映画を見ること」の素晴らしさを実感させられる瞬間だった。ありがとうスター・ウォーズ