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~テーマは崇高でもエンタメとしては底辺~「天空の蜂」ネタバレレビュー

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作品概要

自衛隊に納入されるはずだった最新鋭の巨大ヘリコプター「ビッグB」が開発者の子供を乗せたまま「天空の蜂」と呼ばれる謎の人物によって操られてしまい、全ての原子力発電所を破壊しないと高速増殖炉「新陽」にヘリコプターを墜落させるという未曽有の脅迫テロ事件を描く東野圭吾の同名小説を映画化。出演は江口洋介本木雅弘仲間由紀恵綾野剛柄本明國村隼石橋蓮司佐藤二朗向井理光石研竹中直人、やべきょうすけ、手塚とおるなど。監督は「20世紀少年」の堤幸彦

 

 

点数:1.5点(5.0点満点、0.5刻み)

※ネタバレを含みますので読まれる方はご注意ください

 

 

中立を貫きながら現在における原発に対する問題意識を浮かび上がらせるという志はいいのだが、そのテーマをうまくエンターテイメントに落とし込めずにダメな邦画にありがちな要素ばかりが目立つ非惨な出来栄えとなってしまった。

 

既に原作小説を知っている人には当たり前のことだがこの物語で描かれるテーマはズバリ「原子力発電」である。最新鋭のヘリを乗っ取り、全ての原子力発電所を停止させなければヘリを高速増殖炉の上で落とすという脅迫テロ事件に対して、原発に関わる職員や技術者、ヘリ開発者、事件を捜査する警察、高速増殖炉周辺に住む地元住民、原発反対を掲げる団体、犯人など様々な立場の視点から原子力発電を取り巻く状況を描き出す。かつて自分も原作小説を読んだことがあるのだが、サスペンスフルなエンターテイメントとしても原発がもたらす恩恵や問題点など原発に対する問題提起としても優れた小説だったと記憶している。

 

今回の映画でも原発問題というデリケートなテーマをできる限りの中立を保ったままきちんとメッセージや教訓を提示している。事件が進むにつれて、原発の是非についてそれぞれの言い分や問題点を浮かび上がらせ、最終的には日々のうのうと暮らす国民はどうなのかという視点も加わる。何気なく電気を使い続ける我々は日頃どれだけ原発のことを考えていたのだろうか?今はまだ福島原発事故が強烈なインパクトを残しているのもあって考える機会があるだろうが、それ以前にきちんと考えていただろうか?そんな国民達の姿も描かれ、事件の黒幕=主人公の同僚である原発技術者はそんな国民達に問いかける、自分が原発の技術者故にいじめられ自殺した息子の死を、無関心で全てを有耶無耶の片づけてしまう国民達に…。だが事件の最後に流すはずだった国民に向けたメッセージが事件解決により警察がメッセージを止めてしまうのである…なんという皮肉な事件の顛末だろうか。だがエピローグに東日本大震災被災した人々を助けに向かう自衛隊として活動する主人公の息子とボランティアで奮闘する主人公の姿を描くことでだんだん我々の意識が変わっていくような希望があることが示される…このエピローグは映画オリジナルだ。20年前に刊行された原作小説の慧眼も素晴らしいが本作でもきちんと原発のことを他人事のように捉えずに考えてほしいというメッセージに真摯に向き合ってて、構成もなかなかよく考えられている。

 

だが残念なことにサスペンスフルなエンターテイメント映画としては悲惨な出来栄えとなっている。確かにハリウッド映画を意識した重厚でオシャレな仕上がりで巨大ヘリを移すオープニングは他の映画とは違う雰囲気がありこれまでの邦画とは違うぞという気概やワクワクがあるのだが、それが終わった瞬間に全てが杜撰に見えてしまう。まず前述した原発問題に関する言い分や問題点、登場人物の気持ちをベラベラとセリフでしゃべってしまうというダメな邦画特有の問題点が挙げられる。確かに専門用語なども登場するので説明が多くなりがちなのは分かるが、気持ちをいちいち台詞で説明しメッセージをベラベラと説教されるとくどいしその分物語が止まってしまう。特にひどいのがヘリに取り残された子供を救出しヘリを墜落させないようしようと事件解決のために話し合っている対策本部で原発の有無について口論を始めるのだ。原発の有無や是非は事件の解決には1ミリも関係がないのだからさっさと対策考えろと言いたくなるし、感情もベラベラしゃべる有様でうんざりさせられる。その分切実な状況が切実でなくなってしまうのだ。また子供の救出作戦は実は結構ハラハラさせられた部分もあるのだが、救出シーンの大部分がTV中継の実況という名の説明セリフで描写される。そういうのはテレビドラマじゃないのだから画で見せてくれ。

 

次にステレオタイプ的というか堤義彦的なキャラクターと過剰な役者の演技によって生まれる破壊的なアンサンブルだ。ステレオタイプなキャラはまだ大目に見るとしてもシリアスさが重要なはずなのに意味の分からない珍妙なキャラ付けされた手塚とおる演じる刑事や、勝手に発狂して主人公を意味不明な価値観で非難してくる石橋けい演じる妻など見ていて吐き気がした。そして松島花演じる女刑事は方言を必死にいれようとしてしどろもどろになるという大根役者ぶりを披露し、柄本明演じる刑事の相棒を演じた落合モトキもけだるさを勘違いしたキャラ付けのせいで失礼だが演技が見てられないほど下手だと感じた。完全に落合モトキは完全に貧乏くじ引かされた形だろう。また江口洋介など一部のベテラン陣もオーバーアクト過ぎて下手に見えてしまっている。綾野剛本木雅弘などかなり健闘している役者陣もいるのだが…もっとマシな演技指導ぐらいやってくれ。

 

そしてアクションやサスペンスというエンターテイメント大作で大事な要素や展開の仕方がことごとくダサい。冒頭からやる気のない映像が続き、事件の最中にポエムめいた発言やクドクドと説明ゼリフをすることで話が止まる。他にもヘリ強奪シーンや犯人がいると思われる部屋への投入作戦などは全くといっていいほどサスペンスが皆無、カッコイイと思わせてくれる画がない、ヘリ墜落シーンで差し込まれる黒幕が高速増殖炉の上でヘリを受け止めるというイメージ映像を挟むセンス、シリアスな場面なのに棒立ちの人が映りこむなどの繊細さを欠く画を平気で採用する、群衆やエキストラへの演出の杜撰さ、無駄なスローモーションの乱用など全てにおいて空回りしている。こういう大作映画こそ細かい演出における繊細さ問われると思うのだが堤幸彦は全くそういうことには興味がない。これをハリウッド大作っぽいとかかっこいいと思っている神経やセンスに心底呆れるばかりだ。重厚なテーマとエンターテイメントがバランスよく絡み合ったハリウッド大作をよく見てほしい。これではマネにすらなっていないではないか。しかもこんなに不快指数が高めなのにこの映画138分もあるのだ。ただでさえ推進力のないストーリーで長ったらしいのに…本当に苦痛だ。

 

確かにテーマは崇高だし、オープニングはかっこいいし、子供の救助シーンがなかなかハラハラさせられたし、秦基博のエンディングソングもいい…でも他が杜撰過ぎて見ていられない。どんなに描いているテーマがよかろうとこの映画の出来栄えは最低だと断言する。邦画でも骨太な作品ができるかと一応期待していたのだが、結局いつものダメな邦画丸出しの映画に成り果ててしまっているのが悲しい。あぁやっぱり堤幸彦堤幸彦なんだなぁ…