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~崇高なる平和への想いがシリーズの面白味をぶち壊す~「ロッキー4 炎の友情」ネタバレレビュー

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作品概要

前作でチャンピオンに帰り咲いたロッキーが、エキシビジョンマッチで親友であるアポロを殴り殺してしまうほど強烈なパワーを持つソ連出身ファイターのイワン・ドラコとの戦いに挑むロッキーシリーズ第4作。出演はシルヴェスター・スタローン、タリア・シャイア、バート・ヤング、カール・ウェザース、ドルフ・ラングレンブリジット・ニールセン、トニー・バートンなど。監督は「ロッキー3」のシルヴェスター・スタローン

 

 

点数:2.5点(5.0点満点、0.5刻み)

※ネタバレを含みますので読まれる方はご注意ください

 

 

シリーズに新鮮さを取り戻そうと様々な新要素や流行を取り入れて観客を楽しませようとするサービス精神はひしひしと感じられるが、新鮮さにこだわるあまりにシリーズのよかったところが希薄になってしまっているのがとても残念だ。

 

どうしようもない人生から脱出するために戦い、全てを失いかけても新たな闘志を燃やして戦い続けるロッキー達の戦いは今作でついに4作目となる。これまでに描かれてきたキャラクターたちのドラマも円熟を迎え、シリーズもだんだんマンネリ化の波には逆らえなくなってきた。そこでシリーズに新たな風を吹かせるために作風を思い切って変え、新たな要素をふんだんに取り入れることを選択する。

 

そうして出来上がった今作のストーリーにはアメリカとソ連の冷戦と雪解けムードという当時の世界情勢を盛り込み、ドラマ性よりもエンターテイメント性を重視したテイストになった。国力を総動員した最新鋭のトレーニングによって作られた屈強な肉体を持つソ連からやってきた大男のイワン・ドラコがロッキーに挑むためにアメリカにやってくる。それを聞きつけたアポロは自分の中に眠るボクサーとしての闘志をぶつけるためにラスベガスでドラコとのエキシビジョンマッチを受けることを決意する。引退して時間が経っていることからロッキー達も最初はやめるようにと進言するのだが、自分にはボクシングしかないと闘志を燃やす姿にかつての自分を思い出したロッキーはドラコから感じるただならぬ気配に不安を覚えながらもセコンドとしてアポロをサポートすることを決心する。試合当日、アポロは自分のテクニックを駆使してドラコを翻弄するものの、ドラコの容赦ない反撃にだんだんボロボロにされていく。エキシビジョンを忘れて本気でアポロを殺そうとしているドラコに気付いたロッキーは試合をやめさせようとするものの、アポロはそれを拒否して満身創痍で立ち向かう。だがドラコのパンチを浴び続けたアポロはそのままリング上で帰らぬ人となってしまう。

 

アポロの雪辱を晴らすべく、ロッキーはファイトマネーなし、タイトルは関係ない非公式試合、試合はソ連で開催という悪条件を飲み、ドラコの祖国であるソ連でのリベンジマッチに挑むことを宣言し、アポロの死を悲しみながらもソ連の極寒の地でアポロのトレーナーだったデュークとポーリーと共にトレーニングに励む。そして試合当日、ソ連の政府首脳も出席し、ドラコへの歓声とロッキーに対するブーイングの嵐というアウェーの中で運命のゴングが鳴る。ドラコが放つ破壊力抜群のパンチを何度も受けながらも立ち上がるロッキーにドラコはだんだん恐怖を抱き始め、ロッキーは徐々にドラコからダウンを奪っていく。そんなロッキーの不屈の闘志を目撃した観客たちはいつしかブーイングからロッキーへの声援へと変わっていく。そうして迎えた最終ラウンド、国家の威信をすべて忘れて、自分の勝利のために拳をぶつけ合った末、ドラコは10カウントに沈みロッキーは勝利を掴む。冷戦で緊迫していた国同士が国の垣根を超えて一つの試合に熱狂した事実にロッキーは言う「誰もが他人を憎み合ってきたが、この戦いを通してみんなが一つになった。俺たちは変わることができるんだ!」と…このメッセージはとても素晴らしいと思う。

 

だが果たしてロッキーシリーズに対してその素晴らしいメッセージがよい方向に働いてくれたかと言えば、残念ながら違うと言わざるを得ない。冷戦における東西関係の雪解けムードや平和への想いを込めることを重視してしまったがために、アポロとの友情がおざなりになってしまったのだ。「ロッキー3」で恐怖に負けてしまったロッキーを支え、自分のトレードマークである星条旗柄のトランクスを託すほどの強固な友情を育んだアポロがリングの上で死んでしまった。自分と同じようにボクシングだけが生きがいだった親友を亡くして、その悲しみをバネにしてロッキーはドラコとの勝負を迎えたはずだ。なのに試合後のインタビューではアポロのことに全く触れずに平和への想いを語る…それはいくらなんでもアポロが浮かばれないというか、あの感動的な友情を無下にされたような気持ちにさせられる。またわざわざロッキーが平和への想いをぶちまけなくとも、ブーイングしかなかったソ連の観客がいつしかロッキーコールを始める場面や「国家のメンツを潰すな」と言ってきたソ連政府の幹部をドラコが「そんなことどうでもいい!俺が勝つために戦うんだ」と言い放つ場面だけで十分に伝わると思う。演出や素晴らしいメッセージが今まで築き上げてきたロッキーシリーズの面白味や肝を壊してしまったのだ。

 

他にも見ていてゲンナリするポイントは多い。前作でもあったキャラクターのドラマや試合やトレーニングに至る過程を当時流行りのポップスにのせてダイジェストで描くという演出は、かつての名場面も取り入れてこれでもかと多用されることで、数少ないドラマ性もあっさり流されてしまう。いくらドラマ性を重視しない作りとはいえ、ここまで流されてしまうと流石に物足りなさを覚える。前作でもその場面はまるでミュージックビデオのようだと感じたが、今作においては映画の大部分がミュージックビデオのように感じられてしまう。また何を血迷ったのかポーリーにはロッキー一家からプレゼントされた女性ロボットとのどうでもよいロマンスまで用意される。後半には一切関係ないどころかギャグにしてもつまらない…楽しませたいという気持ちは分かるが、そんなことを描く暇があったらドラコのバックボーンとかロッキーの葛藤に時間を費やすべきだと感じたし、前作からあったポーリーというキャラクターがどんどん「ただのギャグキャラクター」化していく懸念が如実に現れたと言っていいだろう。

 

そして個人的に一番違うなと感じたのが、トレーニングシーンであの「ロッキーのテーマ」が流れないことだ。トレーニングシーンにおけるロッキーのテーマはシリーズにおいて重要な位置づけでありロッキーシリーズのトレードマークであるはずなのに、トレーニングで流れるのはヴィンス・ディコーラによる当時の流行りっぽいテクノなサウンドなスコアとジョン・キャファティーの「Heart's On Fire」なのだ。今までのシリーズの作曲を担当してきたビル・コンティがいないにしてもロッキーのテーマは流せるし、ヴィンス・ディコーラによるアレンジでもいいからトレーニングではロッキーのテーマを流すべきだったと思う。シリーズを一新することばかりに集中してしまってシリーズの肝を壊してしまっては本末転倒だ。

 

悪いポイントばかり挙げていったがいいポイントももちろんある。ジェームズ・ブラウンによる圧倒的なパフォーマンスは作品のクオリティを上げるかは別として見ていて楽しいし、壮絶な死闘を見せるロッキーとドラコの試合は見る者を熱くさせる。政治的なメッセージも見せ方が悪いだけで別にメッセージそのものは悪いとは感じなかった。また役者陣は最善を尽くしていると思う。シルヴェスター・スタローンは雪景色でトレーニングする姿が様になっているし、肉体やパフォーマンスも素晴らしい。ライバルとなるドルフ・ラングレンの圧倒的な巨体と感情のない真顔はとても恐ろしく、これまでにないほどの敵としての存在感を放つ。今作で壮絶な死を迎えてしまうカール・ウェザースもボクサーとしての闘志むき出しで立ち向かう姿が印象的だったし、アポロのトレーナーであるトニー・バートンの悲痛な表情も印象的だ。ブリジット・ニールセンはまぁ…いいんじゃないかな(ラズベリー賞受賞しているけど)

 

シリーズに新たなテイストを加え、エンターテイメントとして楽しませようとするサービス精神は流石スタローンだと思うが、そのサービス精神が過剰になってしまう、空回りしてしまう悪い癖が極端に出てしまうとシリーズ全体を壊してしまうのだなと改めて実感する1作だった。でもこの失敗もロッキーというキャラクターの人生には大事なピースとして記憶される…失敗もロッキーには似合うのだ。