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~全てを手に入れたロッキーに襲い掛かる喪失と新たな友情~「ロッキー3」ネタバレレビュー

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作品概要

アポロとの戦いを制し、チャンピオンのタイトルを守り続けて地元の名士として広く知られるようになったロッキーだが、新たな挑戦者であるグラバー・ラングとの戦いで大敗を喫してしまい、もう一度チャンピオンに輝くために特訓をすることになるロッキーシリーズ第3作。出演はシルヴェスター・スタローン、タリア・シャイア、バート・ヤング、カール・ウェザース、トニー・バートン、バージェス・メレディス、ハルク・ホーガン、ミスター・Tなど。監督は「ロッキー2」に引き続きシルヴェスター・スタローン

 

 

点数:4.5点(5.0点満点、0.5刻み)

※ネタバレを含みますので読まれる方はご注意ください

 

 

前作で勝ち得た揺るぎない栄光によってかつての自分を構成していた要素が喪失していくことに悩む姿がロッキーの新たな一面を開花させ、ミッキーの死去とアポロとの友情という2つの柱が物語をドラマチックに彩る快作だ。

 

前作までのロッキーは金も地位も何もないところからスタートして、不遇な人生に別れを告げてかけがえのない幸せを手に入れるまでの戦いが描かれていた。だが今作では幸せや栄光、家族など守るべきものを全て手に入れてしまったがためにかつてのハングリーさを失ってしまったロッキーが、かけがえのないものを失いながらも失ってしまった闘志を燃やしてかつての自分と同じように闘争本能をむき出しにしてチャンピオンを狙う男との熱い戦いが描かれていく。

 

アポロとの壮絶な戦いを制したロッキーは、その後もヘビー級チャンピオンを10回も死守し続け、コマーシャルにも多数出演するほどの人気者になり、莫大な財産も手に入れてエイドリアンと息子との生活も順風満帆、地元ではフィラデルフィアのロッキー・ステップ前に自身のブロンズ像が建てられるほどの地元の名士としても有名になっていた(「ロッキー2」のときはコマーシャルのセリフを言うことができなかったけど勉強したのだろうか?)。そしてかつての生活とは考えられないほどの幸せな人生を謳歌しているロッキーは自身の体の限界と守るべき幸せのために自身のブロンズ像除幕式で引退を宣言するのだった。そんな中、グラバー・ラングという男がロッキーに挑もうと執念を燃やしていた。彼は自分を強くするための努力を毎日欠かさず、ヘビー級チャンピオンになるために闘争本能をむき出しにして戦うことだけを考えている生粋のファイターであり、かつてのロッキーのようなハングリー精神を体現する男だった。

 

グラバーは意地でも現ヘビー級チャンピオンのロッキーと戦うために、ロッキーのブロンズ像除幕式でロッキーに対して「お前は弱い相手としか戦わない腰抜けだ!」と侮辱的な挑発を行う。その挑発に憤慨したロッキーは引退を撤回し、彼の挑戦を受けることを決心する。だがミッキーは「お前はグラバーには勝てない、弱い相手とマッチメイクしてお前を守っていた」と言い放ちトレーナーを降りようとする。ロッキーはなんとかトレーナーをやめたがるミッキーを説得してグラバー戦に向けてトレーニングを始めるのだが、かつてのような過酷なトレーニングは行わず、自身のオリジナルグッズ販売会でのファンサービスに答えながら、マイペースにトレーニングを行う。一方、グラバーは更に自分を追い込むべく過酷なトレーニングに打ち込んでいた。そして迎えた試合当日、一触即発なピリピリしたムードが漂う。だが試合開始直前にミッキーが心臓発作を起こしてしまい重体に陥ってしまう。そんなミッキーのことが気がかりなロッキーは彼の教えを実践できずわずか2ラウンドでKO負けを決し、ミッキーもそのまま帰らぬ人となってしまう…。

 

ミッキーとトレーニングを行ってきたジムで失意に暮れるロッキーに、思いもよらない来客がやってくる…なんとかつてのライバルであるアポロ・クリードだ。グラバー戦で解説ゲストとして招かれてロッキーの不甲斐ない試合ぶりを見たアポロは「お前にはグラバーのようなハングリー精神がないから負けたんだ!俺を倒したときのお前には虎の目が宿っていたじゃないか!」とロッキーに喝を入れ、ミッキーの後を継ぐトレーナーに名乗りを上げる。そしてアポロの地元であるカリフォルニアでロッキーは本格的なトレーニングを始めるものの、どうしてもトレーニングに身が入らない。敗戦のショック、ミッキーの死、今までの試合が出来レースだったかもしれない事実、慢心、守らなければならない幸せ…全てを手に入れたロッキーはかつてのような熱き魂を失ったと同時に、守るべきものが増えたために喪失に対する恐怖に支配されてしまったのだ。それでもエイドリアンは励まし続け、ハードなトレーニングを通してロッキーはアポロ流のファイトスタイルと闘争心を取り戻す。またこのトレーニングを通してアポロとの友情も育んていく…昨日の敵は今日の友だ。アポロのトレードマークである星条旗柄のトランクスを授かったロッキーは再びグラバーとの戦いに挑み、ついに勝利を収める。かつての府抜けたロッキーはもういない…失ってしまったものもあるけれど、仲間と共に新たな勝利を手にしたのだ。そしてロッキーとアポロは、誰もいないリングで二人だけのリターンマッチを行う…アポロがトレーナーを買って出たのは、かつてのロッキーを取り戻させてかつての雪辱を晴らすためだった。そしてここに新たな友情が誕生したのだ。

 

演出面でも前作までのロッキーのような侘しさや切なさとは打って変わり、どこか陽性な明るい雰囲気を醸し出す。サバイバーの「Eye of the Tiger」にのせてロッキーの怒涛の快進撃や彼の人気ぶりを描くとともに、グラバーがひたすら一人でトレーニングする姿を描くことで、全てを勝ち得ているがどこか慢心も見えるロッキーとただひたすらチャンピオンを倒すためだけに全力なグラバーが対比的に分かりやすい。「Eye of the Tigher」の明るい曲調もあってか、懐かしい軽快なミュージックビデオを見ているような気分になるが語り方としては上手い。また後半のトレーニングの舞台であるカリフォルニアフィラデルフィアよりも明るくて温かいイメージを印象付ける…というか後半からはアポロの雰囲気が支配してくると言ったほうが正確なのかもしれない。もちろんミッキーの死の場面やリングで失意に暮れるロッキーの場面など重要なシーンでは切なさが全面に出てくるので全て明るくなったという訳ではない。そして定番のトレーニング場面ではアポロとの友情が垣間見え、水泳やアポロの独特なステップなど新たなトレーニング場面も追加されていて、新たなファイトスタイルの確立に説得力があるものになっていると感じたし、試合シーンではロッキーが見事にアポロのファイトスタイルを完全コピーしていて、前作までの違いをきちんと見せつける。試合の死闘ぶりも前作以上のものを見せつけてくれる。ビル・コンティのスコアも健在できちんと「ロッキー」シリーズとしての矜持を保たれていると感じた。

 

役者陣ではシルヴェスター・スタローンの肉体美と華麗なステップの体技は相変わらず素晴らしい。キャラクターとしても最終作としての位置づけからからかなり成熟したものとなっていて、前2作とは比べ物にならないほどに魅力的だ。また今回でロッキーに壮絶なトラウマを残すミッキー役のバージェス・メレディスの雄姿も見逃せない。最後の最後まで独特な口調でロッキーを導き、死に際までロッキーの師、父としての偉大さを見せつける姿は本当に素晴らしかった。そしてロッキーを新たなに支え、ボクサーという境遇を分かり合える最高の親友として物語を盛り上げるアポロ役のカール・ウェザースも素晴らしい。厳しくロッキーを鍛えながら自分のファイトスタイルや闘志を託し、最後には二人だけの絆がぶつかる…まさに最高のライバルキャラクターと言えるだろう。もちろんタリア・シャイアの健気な芯の強さ、バート・ヤングコメディリリーフぶりにも注目だ。

 

偉大な師匠の死、かつてのライバルとの新たな友情、かつての闘志を失ったロッキーの喪失と再生…もうこれだけでロッキーというキャラクターに更なる深みが増していくのが分かる。今作はシリーズ最終章という位置づけで制作が予定されていたらしいが、今作を見た後だとロッキーのその後の人生も見てみたくなるほどにシリーズへの愛が詰まった作品だと思う。