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頭の中の感想置き場

映画、アニメを中心に感想や想いを綴っていきます

〜どんな時でも優しいチャーリー・ブラウンが大好きだ〜「I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE」ネタバレレビュー

映画レビュー アニメレビュー

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作品概要

転校してきた赤毛の少女に恋をしてしまった恥ずかしがり屋のチャーリー・ブラウンが、愛犬のスヌーピーの助けも借りつつ様々な学校行事やイベントでかっこいい姿を見せようと奮闘する姿を描く漫画、アニメ共に世界的に有名なチャールズ・M・シュルツ原作の漫画「ピーナッツ」をアニメ映画化。声の出演はノア・シュナップ、ビル・メレンデス、フランチェスカ・カパルディ、ハドリー・ベル・ミラー、レベッカ・ブルーム、マリエル・シーツなど。監督は「アイス・エイジ4 パイレーツ大冒険」スティーヴ・マーティノ。

 

 

点数:5.0点(5.0点満点、0.5刻み)

※ネタバレを含みますので読まれる方はご注意ください

 

 

漫画や2Dセルアニメからそのまま抜け出してきたかのような温かみのある質感や表現によるアニメ的快感や、映画だからと言ってスケールの大きいことをせずにいつも通りの日常とドタバタ劇から染みるメッセージと愛おしさにかつてないほどの幸福感を覚える1作だ。

 

先に自分とピーナッツとの距離感について述べておきたい。自分はピーナッツに対して強い思い入れはないものの、幼い頃にピーナッツのアニメーションを見た記憶がおぼろげながら残っているぐらいの距離感だ。だが今作を見ていく内に、自分の中に眠っていたピーナッツのアニメーションを見ていた記憶がふつふつと蘇っていくのを感じ、どんどんスヌーピーチャーリー・ブラウン達が大好きになっていくのを実感させてくれる…それほどまでに今作にはピーナッツ愛に溢れていたのだ。

 

まず素晴らしいのは独特な質感の3DCGアニメ描写によるアニメ的快感だ。「リトルウィッチアカデミア」のレビューを書いたときにも、アニメ的快感を言葉にすることに悩んだものだが、今作のアニメ的快感を精一杯言葉で表現すると、かつての漫画や2Dセルアニメの質感や温かみが3DCGアニメで表現されていく快感だ。例えばキャラクター達の肌やスヌーピーウッドストックの体毛、自然の情景にはほんのりとした温かみを感じさせてくれる絶妙な塩梅の質感で表現されることで、3DCGアニメと2Dセルアニメの境界を限りなく近づける。この温かみのある質感はゲーム作品だが「毛糸のカービィ」や「ヨッシー ウールワールド」を連想した。

 

またキャラクターの豊かな表情や動きも2Dセルアニメ版のピーナッツのときと全く同じデフォルメ感やコミカルな動きが全く損なわれていない。かと思いきや、スヌーピーの妄想で描かれるレッド・バロンとのドッグファイトなどでは3Dアニメらしい奥行きを感じさせるダイナミックな表現を取り入れながら描かれる。3Dアニメらしい奥行きやダイナミックな表現はあるのにその動きや温かみのある質感はまごうことなく2Dセルアニメを見ている感覚に限りなく近い。他にもチャーリー・ブラウンが考える理想の自分のイメージでは漫画のときの姿が動きだし、躍動感あふれる動きの時には漫画っぽいラインがフッと現れるなど、漫画版ピーナッツからの要素も取り入れられている。まさか漫画版、2Dセルアニメ版を全て取り込んで3DCGアニメにしてしまうとは恐れ入った。

 

そして映画だからといってわざわざドラマチックなことはせずに、いつも通りの緩やかな日常やお決まりの展開を描いているのも好感度が高い。どうしても長編映画となるとわざわざ泣かせようと壮大でドラマチックな話にしようとしがちになってしまうものだ。例えば今作と同じような立ち位置のもとでドラマチックな話にしようと考えて日本では「STAND BY ME ドラえもん」が作られ、見事に泣かせるためのストーリー作りをしていた。だが今作ではお馴染みの仲間達が学校からの課題に苦戦し、プロムのダンス大会など学校行事に勤しみ、放課後にはスケートやお祭りではしゃぐという漫画やアニメシリーズでも描かれていたドタバタな日常がメインだ。もちろん、ルーシーの人生相談や先生や大人の声が謎の機械音で表現される、泣くときには大きく顔を上に向けて口だけになる、凧あげに失敗するチャーリー・ブラウンなどお決まりの展開や描写もきちんと描かれる。だからこそ主人公であるチャーリー・ブラウンの本当の魅力が浮かび上がる優しいメッセージや自分に自信のない人達への応援が心に沁みる。

 

主人公のチャーリー・ブラウンは残念ながら周囲の個性的な子供達と比べて冴えない男の子だ。彼は自分を卑下しがちなマイナス思考で、運動神経も悪く、仲間達から馬鹿にされることもしばしばだ…自分も運動神経が悪くて、自分を卑下しがちな人間なので彼にはすごくシンパシーを感じてしまうというものだ。そんなチャーリー・ブラウンは転校生してきたばかりの赤毛の女の子に恋をしてしまう。「あの子と仲良くなりたい!おしゃべりしたい!」とチャーリーは自分の家の真向かいに住む彼女の家を窓辺から眺めながらが赤毛の女の子のことを想うが、奥手な彼は「どうせこんな冴えない自分なんか見向きもされないし、こんな自分を知られたら愛想尽かされるだけだ」と考えてしまい気分が沈んでしまう。自分も女性に告白もできないぐらい奥手なので彼のモヤモヤが痛いほどに分かる…。

 

それでも何とかルーシーの人生相談や、スヌーピーの助けているのか邪魔しているのか分からないようなアシストを受けて、文化祭の一芸コンテストやプロムのダンス大会、グループでの読書感想文などで自分のかっこいいところをアピールしようと奮闘するも肝心な邪魔が入ってしまってなかなかかっこいい所を見せることができない。例えば一芸コンテストでは観客から冷たい目を向けられていた妹のサリーを助けたために特訓したマジックを披露することができなかったし、ダンスコンテストではダンスの披露中に事故でスプリンクラーを作動させてしまうし、せっかく彼女のために一人で書き上げたトルストイの「戦争と平和」の読書感想文もレッド・バロンのおもちゃ(誰のおもちゃかは失念した…)に紙吹雪にされてしまう。ああなんてツイていないんだチャーリー・ブラウン…。

 

そんな彼に大きなチャンスが巡ってくる。なんと学校のマークシート模試で前代未聞の100点満点を叩き出したのだ。その事実が知れ渡った瞬間、あれだけ小馬鹿にしていた仲間達が急に彼の言動や行動をありがたいお告げをする神様かのよう崇めるようになり、つい記念日の制定とメダルの授与式が行われるまでに事態は進んでいく。だが授与式の最中にチャーリー・ブラウンは気づいてしまう、100点満点を叩き出した解答用紙が実はペパーミントが適当に塗りつぶした解答用紙(しかもスマイリーになっているという適当ぶり)で、解答用紙を提出するときにぶつかった拍子にお互いに無記名の解答用紙が入れ替わってしまったのだと…。盛大に祭り上げられている会場でチャーリー・ブラウンは本当の事実を打ち上げるのか、このまま嘘を突き通すのかという究極の2択を迫られ、そして彼は本当の事実を打ち明けるのだった。もちろん仲間達は失望、チャーリー・ブラウン自身も結局、赤毛の女の子にいい所を見せることが出来ずじまいとなってしまった。

 

だがチャーリー・ブラウン本人が気づいていないだけで観客は彼の本当の魅力を気付かされているはずだ。あれだけ準備したマジックをフイにしてまでも舞台上で晒し者にされている妹のサリーを助ける、メダルの授与式で100点満点の解答用紙が自分のものでないことを知った時にはきちんと正直に自分の解答用紙ではないことを打ち明ける、凧揚げのできない男の子にやり方と地道に努力することを教えてあげる…彼は、個性的な仲間達の誰よりも優しくて正直な男の子だ。それ故に正直者が馬鹿を見る結果になりがちではあるが、その深い優しさはかけがえのない魅力だ。そして彼は冴えない自分を変えようとマジックやダンスの練習、トルストイの「戦争と平和」を一人で読んで感想文を仕上げるなど地道に努力することを惜しまない。確かになかなか結果は出ないし不器用だけど、それでもコツコツと頑張るチャーリーの姿に、同じように冴えない自分にとっては大きく励まされた。自分はダメだと思っているかもしれないけど、君にもいいところはしっかりあるのだと気付かされたのだ。またこのとき仲間たちもチャーリーを多少はからかうものの、ネチネチといじめたりせずに仲間としてきちんと受け入れている所がまた泣かせるというものだ。最終的には凧に振り回された先にいた赤毛の女の子と仲良くなることができ、ハッピーエンドで終了…かと思いきや最後にはボールを蹴ろうとしてルーシーにボールをとられてこけてしまうというお決まりの展開で終了である(笑)相変わらずチャーリー・ブラウンは冴えない男の子だけど、素敵な男の子である。

 

スヌーピーや個性的な仲間達の面白さも忘れてはならない。チャーリーが悩んでいるときには生意気ながらもアドバイスをしつつ、肝心の所ではそっけなく突き放してしまう愛犬スヌーピーの掛け合いは微笑ましい。またチャーリー・ブラウンの恋模様と同時に描かれるスヌーピーの妄想も面白い。スヌーピー自身が飛行機乗りで、ある女性飛行機乗りに恋をするのだが、宿敵レッド・バロンに邪魔をされてしまい、レッド・バロンとの戦いになだれ込んで、最後にはハッピーエンドという内容の妄想なのだが、チャーリー・ブラウンの恋模様としっかりリンクして描かれ、映画館で見る価値のある大迫力な世界観が広がっている。黄色い鳥のウッドストックスヌーピーの考えた妄想にああだこうだ言い合うときが微笑ましく、スヌーピーの妄想内でもコメディリリーフとして笑わせてくれる。他にもチャーリーを励まし続けるライナスや、チャーリーを小馬鹿にしながらも天才と崇められているときの彼を実は認めているツンデレぶりを見せるルーシー、運動神経がよく明るい性格のペパーミントと真面目で勉強が得意なマーシーの凸凹コンビなど可愛らしいキャラクター達の活躍が終始描かれる。見ている間、「かわいい」と何度心の中で呟いただろうか…。

 

あとチャーリー・ブラウンをはじめとした子供達の声は大人の役者が演じていると思っていたのだが、なんと実際に演じていたのは子役であると聞いてとても驚いた。しかもとても演技が上手なのである。自分は数少ない字幕版で鑑賞していたのだが、きっと子供だからこそ出せる味わいというのがしっかり出ているのだと感じた。スコアに関してもヴィンス・ガラルディによるお馴染みのスコアも聞かせてくれるし、クリストフ・ベックによるオリジナルスコアも聞き心地が良い。メーガン・トレイナーによる主題歌「Better When I'm Dancing」も軽快で可愛らしい曲でよかった。ただ残念なのは字幕版でも綾香による日本版エンディングテーマが流れることである。ただでさえ海外の作品に何の脈絡もなく日本版エンディングテーマが差し込まれる行為自体が嫌いなのに、明るく陽性な雰囲気をぶち壊しにするかのような曲調のバラードが流れるのには腹が立った。日本版エンディングテーマを差し込むことは百歩譲って我慢するがせめてきちんと雰囲気にあった曲にしてほしい。「マッドマックス 怒りのデス・ロード」といい「ベイマックス」といい、日本版エンディングテーマを差し込むという風潮が廃れることを切に願うばかりである。

 

スヌーピーらしさとは何かをきちんと踏まえた上で、きちんと心に残るメッセージを残し、アニメ的快感をしっかりと与えてくれる素晴らしい傑作に仕上がっている。最初ピーナッツの3Dアニメ化に対して懐疑的だった自分にとって、このメッセージとアニメ的快感に完全にノックアウトされた形だ。そして今作こそが本当に見たかった「STAND BY ME ドラえもん」だったのではないかとこのブログ記事を書きながら改めて感じた。